本年度は、「異制庭訓往来」「新撰遊覚往来」「山密往来」を中心に調査した。 「異制庭訓往来」と「新撰遊覚往来」とは、近似した内容を持つ往来集である。話題の重なる書状が多くあり、表現にも類似が多い。私見では、「異制庭訓往来」が「新撰遊覚往来」を参照したと考えているが、両者は想定する読者(利用者)が違っているように見受けられる。即ち、「新撰遊覚往来」が僧侶を対象とするに対し、「異制庭訓往来」は、武家の利用を考えて撰述したかと思われる。 研究の重点は、取り上げられた話題の考察においた。どういう題材が採択されているか、採られた題材についてどのように説明されているかを見ることで、時代の教養のあり方が見えてくる。「新撰遊覚往来」の場合、題材は次のように配列されている。 1月連歌 2月詩歌 3・4月茶 5月仏事 6月遊技・芸能 7月香 8月手習い 9月入木法 10月管弦 11月学問 12月法事 これを「異制庭訓往来」と比較する時、同じ話題を採り上げながら、扱い方に大きな違いが認められる。 「山密往来」については、これまでの調査で存在の判明した16本の伝本を整理し、この内、至徳元年の本奥を持つ系統について校本を作成した。また、そこに見られる施註についても対照表を作成し、公表した。 上記の他、「垂髪往来」について、翻刻を公表した。「寺院文化圏で製作された古往来の研究」を纏めるに当たって、基礎資料の提出を最優先とした。
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