研究概要 |
江戸から明治文化の流の中で、書画展観会というものはさまざまな役割を担ってきた。その一つが、今日で言う美術館特別展覧会といった体のものであった。人々が集まり、古典または新作の書や絵画などを鑑賞し、批評し合う光景であった。開催に向けて、当事者だった文人たちはそれぞれの属する流派の歴史と、その中での自らの位置づけを確認しつつ、いくつもの方法によって作品公開を成功させようと努力した。古典芸術の受容、当代創作の流行、大衆文化の商業化などを、書画展観会興行に見出すことができる。 会そのものの模様と、参加者それぞれの関わり様について、当時の文献からかなり精緻な構図を描くことができる。しかし具体的に、何がいつ、どこで展示・鑑賞され誰がそのような「文化財」を所持していたかなどについては、全く未検討であった。この研究では、主として興行の招待状(引札)と展観目録を、できるかぎり秘録全国に渉猟し整理することに努めた。目録について、200点近い点数の所在を確かめ、書誌調査と複写を行うことができた。それらのうち、江戸から明治期の代表作50点を先ず選び出し、その全内容を電子情報化した。出品題・作者名・年代・出品者名・形状などの項目を設け、遂一翻字して検索可能なデータ・ベースとして仕上げるという最終目的の、第一歩である。江戸・明治時代に実際に展示され、鑑賞された10,000点近い書画の基本データを公開可能な形にしたことが、今後も作業を継続して行い、成果を将来公刊する所存である。
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