六朝詩文を解釈する際、テキストとしては、総集類の『文選』のほか、別集類の個人文集を用いるが、その宋刊本が伝来するものは比較的少ない。宋刊本に次ぐ別集類の版本としては、明・嘉靖刊本、或は、『漢魏六朝一百三名家集』所収本がある。ところが、新たに中国で『歴代卅四家文集』が発見されて、六朝詩文解釈の一資料とされ、『文選』を補うものとして紹介された。しかし、仔細に分析すると、詩人の年譜や評価などの附録が付され、六朝文学研究の上で『文選』を補う資料たり得るが、それには陶渊明などの代表的詩人の部分が欠けている。実はこの叢書は、内閣文庫蔵明刊『漢魏七十二家文集』の版本を用いて賞雨軒が刊行したもので、恐らく明末清初における残存版木による出版物であり、『漢魏七十二家文集』そのものの価値には及ばない。その『漢魏七十二家文集』も、内閣文庫本には二セットあるが、全く同じ版本ではなく、部分的に補刻等された相違がある。同時に、宮城県図書館にも一本あるが、果たして同版かは不明である。 一方、誠庵文庫本元刊李善注『文選』零本は、元明の李善単注張伯顔本と称せられる諸本と比較すると、東北大学本とは異版で、内閣文庫蔵汪諒刊本、或は、京都大学蔵朱純臣本と極めて類似する。しかし、朱純臣本は竹紙本であるのに対し、誠庵文庫本と汪諒本は白棉紙本である。従って、印刻から見て誠庵文庫本文選は明代の北京書舗汪諒刊本と推定される。 近頃、伝大燈国師筆と言われる、『文選集注』鈔本断簡を発見した。この資料から、『文選集注』の鈔写年代のおおよその時代、及び『文選集注』が巻頭から存在していたことがやや明らかになった。
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