戦前期の台湾人の有力な日本語作家には、楊逵・張文環・呂赫若・周金波・王昶雄らがおり、彼らは1920年代から40年代にかけて東京留学を体験している。本研究は戦前期台湾文学の形成を、読書市場に関する先行研究を踏まえつつ、有力作家たちの東京留学体験を系譜的に考察することにより文化史的、社会史的にさらに深く解明することを目的とした。主な成果は以下の通りである。 (1)先行研究の見取り図を作成するいっぽう、戦前期台湾における読書市場の成熟過程を整理した。 (2)声楽・演劇方面でも活躍するなど「台湾第一才子」と称されているルネッサンス型の作家、呂赫若の1939年以後の東京留学体験を調査研究し、東京声専での声楽学習、出版社旺文社での辞書編集作業、そして東宝が新設した声楽隊に採用されるという多彩な経歴を明らかにし、呂赫若における"台湾意識"の形成過程を研究した。 (3)在台日本人文化人グループの中心的存在であった西川満の東京遊学体験とその後の文学活動を調査研究し、呂赫若らの東京留学体験とその後の文学活動と比較検討した。 (4)以上の成果を論文および共著・単著にまとめた。 (5)研究の今後の展開として、研究の成果および研究を通じて収集した資料を広く公開し、これに関心を寄せる内外の研究者を召集して、財団法人東方学会が2000年5月19日に開催する第45回国際東方学者会議においてシンポジウム「戦前期台北文化界の成熟」を国際東方学者会議実行委員および国際東方学者会議シンポジウム議長として主催し、本研究を戦前期台湾文化界研究へと展開する研究計画を作成し、実行中である。
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