本研究は、中国語ディスコース論の構築を目標としながら、そのための基礎的な作業および理論的な検討を進めることを目的としている。昨年は、ディスコース(談話)の結束性という観点から連接語を取り上げ、中でも使用頻度の顕著に高い"因為"と"所以"の呼応表現の諸類型について、それらの選択使用の要因を明らかにした。本年度は、昨年度の研究を発展させるかたちで、"所以"が単独使用される場合を取り上げ調査した。その結果、"所以"の使用範囲の広さ(隣接句から相当隔たった句までを作用範囲とする)、及び、因果関係の重層性(二重、三重等の因果関係)という顕著な特徴が見られた。また、"所以"には、主張・判断・推論などの根拠を導く、話題終結の前触れとして働く、単に発話を繋いでいくなどの派生的機能が広く見られた。このように、広い作用域を有し、談話の階層性に適合し、談話の継続や終結を導く機能をもつ等の諸特徴から考えると、"所以"は、従来論じられてきたような狭い範囲内での連接標識であることを超えて、より談話的な標識として再確認されるべきであろう。 一昨年来の本研究は、談話における人称代名詞の使用特性、音声面でのピッチ変動に見られる特性、連接語の談話機能を中心に進め、一定の成果は挙げたが、当初の目標の一部分しか達成できなかったのも事実である。特に、「視点」の問題は具体的な調査に入り、データも豊富に収集したにもかかわらず分析結果を出せぬままであったし、また、談話文法と音声の相関関係も当初大きな課題であったが、果たせぬまま本研究期間の終了を迎えてしまった。残された課題はこの他にも多々あり、今後は、それらの研究を継続していかなければならない。
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