中国における公式の見解では、文化大革命期(1996-76年)は文学史上の空白期と位置付けられている。しかし事実は文革期にも当時の党の指導の下に文学活動は展開されていた。一方、文革期には文壇から追放された文学者や、党指導部に批判的な知識人・元紅衛兵による執筆活動が密かに行われ、そのあるものは手書きで広まった。これは「地下文学」として1993年から研究され始めた。つまり文革期には文革指導部による「公然文学」と「地下文学」の2種類の文学が行われていたことになる。 本研究は文革期の「公然文学」文学活動の実態を明らかにし、「文革期文学研究」という新しい研究領域の確立を目指し、その前提となる資料整備をおこなうことを目的とする。 そのために本研究では、文革期出版の単行本文芸資料、文革期の文芸活動の指針となった毛沢東関連資料、紅衛兵資料、最近10年間の文革期文学に関する研究論文を収集した。これらは今後の研究の基礎となるものである。 次にこれらの収集資料の整理を行った。これが本研究の主要な成果である。具体的には1)「朝霞」雑誌、および「朝霞」叢刊の作品名・人名索引資料集の作成を行なったほか、2)「文革期紅衛兵詩歌集」の作成を行った。今回の研究成果報告書はこの資料を中心に作成した。 本研究では、文革期文学を「萌芽・混沌期(1966-71)」「労農兵(労働者・農民・兵士)文壇建設期(72-73)」「解体期(74-76)」の3時期に区分し、文革期文学全体を考察する作業仮説をたてた。この仮説で最も困難なのは「萌芽・混沌期」の裏付けとなる文学活動の実態の解明であったが、紅衛兵詩歌資料で、この時期の活動実態の解明が可能になった。これは本研究のもう一つの成果である。
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