訓詁学には、疑義挙例類とよばれる重要な分野がある。清朝の王念孫・王引之父子の「経義述聞」・「読書雑誌」等を始まりとする。昨年度は訓詁学の古典的作品として楊樹達の「古書句読釈例」をとりあげた。今年度は同じく古典的代表的作品として兪〓の「古書疑義挙例」を取り上げた。兪〓の「古書疑義挙例」は、古書中の難解な例を八十八類にわけ、その特徴に応じて解説している。多くの古書から広く文例を集め内容は音韻学・文字学から修辞学の問題等にまで及び、優れた著作として高い評価のあるものである。本稿「兪〓古書疑義挙例箚記」は、具体的な例について精密にその論理を追って、兪〓の訓詁学の方法を紹介した。 訓詁学の近代的な研究は、胡撲安の「中国訓詁学史」(1939)に始まる。しかしそれは歴史的意味を有するものの、資料を羅列しただけというものである。実質的には斉佩〓の「訓詁学概論」(1943)のほうが、最初の古典的名著といってよいだろう。本稿「訓詁学研究(四)」は、斉佩〓の「訓詁学概論」の内容を各章・各節にそってできるだけ詳細に紹介したものである。引用された訓詁学史上の重要な文章には書き下し文を付して解説した。また音通等の音韻学上の問題については、現代の音韻学の成果による新しい推定音を付しできるだけわかりやすいようにした。このように引用した文献・論文は、数十種におよぶ。
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