本研究は平成9年度から11年度にかけて、ルネサンス文学における魔術主義的想像力の特筆を分析、考察した。本研究はまず英国ルネサンス文学における魔術の扱われ方を考察した。この考察を通じて、「魔術」に潜む秘めやかな欲望、願望、空想を突きとめることができ、その現象を具体的に指摘した。その成果は『エリザベス朝演劇の誕生』(水声社)における「ルネサンス魔術のメタモルフォシス」(平成9年)に発表された。 ルネサンス期において通常魔術と呼ばれたもの(自然魔術、星界魔術、天空魔術)は、霊(スピリトゥス、オカルト、プロパティー)という謎の作用力を対象とする点で錬金術と同じである。ところが、錬金術において霊を物質と単一化(現代の用語なら融合)させることが最終目的である一方、その他の魔術のおいては霊を物質の中に貯えるか、支配することが目標となる。護符(タリスマン)や悪魔召還がその典型的な例である。以上の成果は、『逸脱の系譜』(研究社)における「ルネサンス錬金術の想像力」(平成11年)に発表された。 ルネサンス魔術は発想の点で現代の応用科学とそう変わりはない。いずれも(電磁力、原子力など)目に見えない作用力を応用しようと試みる点である。一方、違いも大きい。現代であれば物質的な因果関係から理解することを、ルネサンス期には霊的な存在を原因と考えたことである。必然的にルネサンス期の物理学、化学、天文学は空想的な仮説を生み出したこれが同時代の文学にしばしば応用された魔術主義的想像力である。
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