研究概要 |
本研究は1986年、1989年に出版した古英語の非人称構文と再帰構文に関する拙著の続編を執筆し、700年から1500年までの期間の、これら人称代名詞を含む構文の変化を記述した研究書を完成させることを、その主たる目的としていた。統語的変化が最も激しかったこの時期の文献を綿密に調査することにより、Mustanoja(1960),Visser(1963-73),Mitchell(1985)等の文法書の用例・記述を少しでもupdateし、分り易いものにすることを目指し、カナダ、トロント大学の古英語辞典企画や、イギリス、ロンドン大学・グラスゴー大学の中英語シソーラス企画と、互いに貢献し合うことを目的とした研究であった。 資料収集は主に海外での学会発表の前後に行う形を取った。平成9年度にヘルシンキ大学、オックスフォード大学、ロンドン大学、平成10年度にシェフィールド大学、ダラム大学、グラスゴー大学、マンチェスター大学、ボードリアン図書館、大英図書館、平成11年度にダブリン大学、平成12年度にロンドン大学、大英図書館にて、資料収集、写本研究及び学者達との情報交換を行った。国内では学会発表のみならず、若手研究者達と自主的に行っている英語史研究会の活動の一環として随時他大学を訪問し図書館・資料室において参考文献を探すと同時に、コンピューター・コーパスの作成法を学ぶ努力をした。 中英語の非人称構文に関しては、動詞の数も限られるため、語彙交代と、物が主語になる構文や人称構文との間の文体的選択が中心となり、ジャンルの違いによる頻度の差こそあれ、ルネサンスまでこうした競合状態が続くことが確認できた。これに対し再帰構文は、運動と感情の動詞に関しては再帰代名詞は実際には再帰の機能を果たしていず、なくても良いため、何故あるのか、いつなくなるのかが議論の焦点となるが、写本の異同を調べることにより、異同の多い少ないの違いが、時期的なものではなく作品による(個々の写本によると言う方が正確であろう)ことが分かった。今後は特に方言学との関連で調査を続ける必要性を痛感した。成果は口頭発表と学術論文では公表しているが、著書の形ではいずれ海外で出版することになるであろう。
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