研究概要 |
本研究は、後期古英語説教散文のうち、特にAelfric,Wulfstanを除く作者不詳の作品群のテキストと言語についての比較研究である。この散文コーパスは、同一のラテン語原典に基づく異版・異本を多数含み、それ故に古英語散文の系譜研究の格好の材料となっているにもかかわらず、そのような研究の基盤すら十分に整っていない。そこで三ヶ年計画の初年度にあたる今年度は、課題研究の基盤整備として、当該作品約150点を網羅的に調査し、コーパス全体の包括的な作品目録を作成した。この種の目録としては、これまでのところScragg(1979),Bately(1993)などがあるが、前者は写本別のリストであり、後者は作品ごとの目録ではあるが作品相互の関係についての情報が不十分で、いずれも本研究課題とは目的を異にする。われわれの系譜研究にとって必要なのは、同一の典拠・題材に基づく異版・異本(部分的な改作、composite homiliesも含む)についての詳細な情報の集成である。そのために上記の二人の目録を基礎として、既存の刊本をできるだけ網羅的に収集し、Scragg,Bately以後に公刊された刊本についてはこれを補い、さらに未校訂分についてもできるだけ原写本について調査し、約150点の作品のそれぞれについて、典拠・対応箇所などについての記述を含む包括的な作品目録の作成を進め、これをほぼ完了した。また目録には、トロント大学のDictionary of 01d Englishの2種類の分類番号(作品番号、Cameron番号)を付し、参照の便を図った。 完成した目録はコンピュータ可読化した。将来は、これを東大ア-カイブ(総合文化研究科言語情報科学専攻)に預託し、学外からの検索の便をはかることも検討したい。
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