研究概要 |
本研究は、後期古英語説教散文のうち、特にAElfric,Wulfstanを除く作者不詳の作品群のテキストと言語についての比較研究である。この散文コーパスは、同一のラテン語原典に基づく異版・異本を多数含み、それ故に古英語散文の系譜研究の格好の材料となっているにもかかわらず、そのような研究の基盤すら十分に整っていない。三ヶ年計画の初年度に、課題研究の基盤整備として当該約150作品を網羅的に調査し、コーパス全体の包括的な作品目録を作成したが、今年度はこの目録に基づいて、古英語散文の系譜の研究上とくに重要な作品を選び、その新たな校訂をおこなった。それによって、MSS Junius 85-86第5番(AElfric,Catholic Homilies II第7番の異版)、同第6番(Blickling Homilies 第4番の異本)、それにNapier XXX(Vercelli Homilies,Wulfstan,Institutes of Polityなどの改変を含む)の三作品の新たなテクストをほぼ完成した。このうちJunius写本からの2篇については、これまでのところ校訂本は第5番は皆無、第6番も部分的にしかなく、今回初の完全校訂本が作成されたことになり、その意義は大きいと考える。またNapier XXXについても、Scraggの校訂本の見直しをおこない、数カ所にわたる転写の誤りを訂正することを得た。いずれの作品についても、原写本からの直接の転写もしくは原写本のマイクロフィルム版をもとにこして校訂をおこなうことによって、原写本の句読点などを再現した、既存の校訂本よりも一層厳密なテクストを作成することが出来たと考えている。 完成した校訂テクストはコンピュータ可読化した。将来は、これを東大アーカイブ(総合文化研究科言語情報科学専攻)に預託し、学外からの検索の便をはかることも検討したい。
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