研究概要 |
本研究は、後期古英語説教散文のうち、特に Elfric,Wulfstan を除く作者不詳の作品群のテキストと言語についての比較研究である。この散文コーパスは、同一のラテン語原典に基づく異版・異本を多数含み、それ故に古英語散文の系譜研究の格好の材料となっているにもかかわらず、そのような研究の基盤すら十分に整っていない。三ヶ年計画のうち昨年度までに完成した作品コーパスの包括的な作品目録およびそのうちの作品3点の原写本に基づく新たな厳密なテクストをもとにして、今年度は後期説教散文作品の言語について統語法・文体の側面から研究をおこなった。とくに散文体の系譜の観点から、Vercelli Homilies,Blickling Homilies,Napier XXXを中心にして、同一典拠・題材に基づきつつ、年代・方言・聴衆を異にする異版・異本が、語順、並列・従属構造、定動詞・非定動詞構造、ラテン語原典の影響など統語法・文体の点でどのように相違し、またその間にどのような散文体の発達が見られるかを考察した。その際、上記の原写体の句読法に基づく新たな校訂テクストを用い、それによって並列構造から従属構造への発達や apo koinou 構造について、新たな知見を得ることが出来た。その成果は論文'Initial Verb-Subject Inversion in Some Late Old English Homilies','A"Wulfstan Imitator" at Work: Linguistic Features of Napier XXX'(いずれも Studies in the History of Old English Prose(Tokyo: Nan'un-do,2000)に所収)として発表した。
|