本研究の目的とするところは次の諸点であった。 (1)ディケンズ、カーライルを中心として、その他の19世紀イギリス文学の電子テキストの収集。 (2)上記電子テキスト分析のための統計ソフトの製作。 (3)上記統計ソフトを用いた、ディケンズとカーライルの作品の比較、影響関係の探索。 (4)この手法の一般化、すなわち、その他の作家の作品への応用。 (1)電子テキストについては、有料、無償のものを含めて、概算で1000点の作品等を収集することができた。さまざまな形式のものが混じっているので、(3)の統計ソフトに直ちにかけられるような形式とするため、なおも整理作業の継続を要する。 (2)統計ソフトtokeiがC言語によって製作された。tokeiとは、山本によってすでに開発されている、活用形を含む複数単語同時検索ソフトSEARCHを利用しながら、今回の研究に必要となる資料を集めるための統計ソフトである。これは文学テクストにおける特定の語の使用例を検索し、その後の前後を囲む文脈を、任意語数(センテンスでも可)で指定し、その部分の統計をとるためのものである。 (3)tokeiを用いながら、blood、hope、など20程度の単語を用いながら、ディケンズとカーライルの間に影響関係が見られるかどうかを調査した。それを示唆するようなデータは出ているが、今回の研究ではそれを数値的に証明し、結論づけるところまで突き詰めることはできなかった。 (4)(3)を発展させた精密な研究は今後に期待されるが、tokeiを用いることにより(a)テクスト間の類似性(模倣、盗作などを含む)の検出、(b)特定の作家の心にひそむコンプレックスの検出などへの応用が可能であることが判明した。
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