本年は、ヴィクトリア朝の外国恐怖症を研究するうえで必須の第一次資料を、ヴィクトリア朝の図書および総合雑誌(『19世紀』、『隔週評論』、『同時代評論』、『北米評論』)から学際的に収集した。学際性こそがこの研究の成否を決定する要因のひとつであるので、とにかくさまざまな方向から収集した(文学史、政治史、外交史、軍事史、社会史、医学史)。 その収集した論文をデータベース化して、検索可能なかたちに変え、今後の研究が容易になるようにはかった。 そのうえで、本年はとくに『ドラキュラ』のなかにあらわれているユダヤ人恐怖の諸相について研究を進めた。とくに東欧ユダヤ人の大量移民にたいするイギリスの優生学的恐怖を研究した。世紀末から二十世紀にかけての優生学の展開については、近年めざましい成果があいついで出版されているので、それらの二次資料についても目を通した。さらに、外国恐怖症の構造をさぐるために、エドワード・サイードのオリエンタリズムをはじめとするポスト植民地批評について精力的に勉強した。 さらに『ドラキュラ』のテクストについては、新妻昭彦の翻訳にたいする注釈として、400字詰め原稿用紙にして240枚相当の研究をまとめた(これは1999年度中には公刊の予定である)。その作業をつうじてテクストを精読することによって、『ドラキュラ』のテクストの、とくに生成論的側面について詳細な理解が得られた。 来年度は伝染病にかんする外国恐怖症について研究を進める予定である。
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