静的な認知体系としての文法理論においても操作上・計算上の複雑さが問題となるという立場を採るならば、経済性の条件は局所的でなければならない。これまでに提案されてきている経済性の条件を局所的、派生的、大域的の三つに分類した時、最も問題となるのは、大域的な経済性条件を用いて説明されていた現象をどのようにして局所的に再解釈していくかである。また、経済性の条件が収束派生のみに適用されるとする限り、常に先見性としての非局所性が問題となり、その代表が先延ばしの原理であった。局所性を維持するための、これに対する手立てのひとつが、可視的移動を強制する強素性の設定であった。しかし、強素性自体ミニマリスト・プログラムの基本精神に反するものである。最近の動きとして拡大投射素性に特別な地位を与えるなどのいくつかの想定を施した上で、強素性、先延ばしの原理の両方を除去しようという試みがあるが、前提となる想定がどの程度極小主義の精神に合致するものか疑わしいという意味において、この問題は依然として十分な解決を得たとは言い難い。 今後の問題として特に緊急の考察が必要とされるものとしては、多重書き出しの現実性、一致/併合の体系、位相の概念の操作性などが挙げられよう。また、中・長期的には、インターフェイス・レベルにおいて課される判読条件の解明があり、さらに、方法論的には、対象となる言語現象を極度に限定している点をどう考えるかもやはり問題となろう。
|