平成7年度および8年度における研究から我々は、アメリカではほぼ1世紀の間隔をおいて類似の文化・社会現象が現出し、その背景にはアメリカ人の「ユートピア」願望があるという結論に到達した。この観点から、平成9年度において我々は、このユートピアへの憧れ(あるいはユートピア思想)を、アメリカ文学史と映画史がどう摂取伝播してきたかの研究を行った。この研究は当初から、小説、演劇、映画がユートピアをどう表象したかという「モチーフ研究」、芸術表象とユートピア思想の構造的相同性の分析にあたる「構造論的研究」、そしてアメリカ文学史、映画史におけるユートピアの意義を問う「総合的歴史分析」の3つを柱とするものであるが、今年度は特にこれら3つのための基礎資料データベースの作成を行い、まずは一定の成果を得たと思う。すなわち、これまでアメリカで出版、公開された文学作品、映画のなかで、どの作品がユートピアのどのような側面をどう摂取利用しているかについての基礎資料作成をほぼ終了したが、あらためて時代やジャンルを問わず、そこに表出されるアメリカのユートピア願望、ユートピア思想は誠に根強く、容易には消えることのないものたるを発見して、今更ながら感銘を受けたのである。 平成10年度においては、新資料のさらなる発掘を進めるとともに、いよいよユートピアという観点からアメリカ文学史、アメリカ映画史を多層的に総合化する作業を行ってゆく予定である。断片的には時々目にするものの、広範囲に文学史、映画史を融合させての論考は、国内、国外を通してまだあまり見かけることがないので、こうした視座を有する本研究をぜひとも早期にまとめ上げたいと考える。
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