この研究は、中英語韻文ロマンス作品をとり上げ、それらに特徴的な表現を、語彙、統語論、ディスコース、作品群の起源的素材の4のレベルについて調査し、可能な場合にはコーパス言語学的方法を援用しながら、中世英国韻文ロマンスの表現の特質を調査しようとするものである。今年度は主として、(1)“transposition"と呼ばれる構文の使用状況の記述を行うとともに、(2)来年度に予定している代名詞アナフォラの研究に向けてコーパス言語学的準備作業を行った。 本年度は、中世英国韻文ロマンスの代表的な作品について、このジャンルの作品に頻繁に見られる“transposition"と呼ばれる構文(本来従属節の中に置かれるべき副詞句などが、節の外側、特に詩行の行頭に飛び出して、独特な表現効果をもつもの)の使用状況を記述する目的で、Havelok the Dane他の作品について該当の個所をファイル上でマークアップする作業を行い、現在分析作業中である。 本年度はまた、上記の作品について、来年度予定している談話レベルの研究の手始めとして、代名詞Heをとり上げ、次のようなコーパス言語学的準備作業を行った。すなわち、代名詞Heは、ロマンスに頻出する二人の騎士の戦いの場面で、そのどちらを指すかが研究者の間で解釈が異なる場合がある。(このような解釈の困難さは、二人の騎士の「目まぐるしい」戦闘場面によく起こる点が特に興味深い。)このような問題の組織的な調査を行う準備作業として、ファイル上で、関連する全ての代名詞をマークアップし、タグ付きファイルを手作業で行った。コンピュータ・コーパスの自動アノテーション・プログラムの利用を種々試みたが中英語韻文で、実用に耐える結果を得ることは、現段階ではきわめて困難と思われる。
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