研究概要 |
研究計画に従い本年度は,コンピュータ,電話,映画,ラジオ,テレビ,インターネットといった電子メディアに焦点を絞り,社会学,心理学,マスコミュニケイション論,情報論,メディア論などの文学の周辺領域の文献を広範に収集するとともに,現代アメリカ文学に登場するメディアをできるだけ多角的かつ包括的に分析することによって,メディアが実現するハイパー・リアリティやシミュラクラといったものがいかに現実におけるノイズとして死の隠蔽とそれへの恐怖の眼差しに関わるかという問題を中心に考察を進めた。その結果、高度情報化資本主義社会において,メディアを通して地球規模で生成される顔なき画一的な「群衆」というものの存在が,「現代アメリカ文学におけるメディアと死の関係」というテーマで研究を進めて行くうえで重要な鍵を握っていることが新たに発見できた。その成果を踏まえて,重要な現代アメリカ作家ドン・デリーロの文学『マオ||』を分析し,「群衆」の時代と小説家の肖像…『マオ||』における死とメディアの神話学,という論文にまとめることができた。 今や「群衆」は国境を越え,万人を巻き込み,かつてない規模でいたるところに生起しつつある。そのように偏在し加速度的に膨張し続ける「群衆」というものの生成が,巨大な消費の殿堂であるスーパー・マーケットやショッピング・モ-ルといった消費メディアや,イメージの消費を促進する写真術や広告ポップ・アートなどの複製メディアとどのような関わりを持つのか,様々な文学テクストを俯瞰しつつ次年度においてさらに研究を進める予定である。
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