研究計画に従い本年度は、巨大な消費の殿堂であるスーパー・マーケットやショッピング・モールといった消費メディアや、イメージの消費を促進する写真や広告やポップ・アートなどの複製メディアに焦点を絞り、社会学、心理学、マスコミュニケイション論、情報論、メディア論など文学の周辺領域の文献を広範に収集に努めるとともに、現代アメリカ文学に登場する消費、複製メディアをできるだけ包括的かつ多角的に分析することによって、それらが実現するハイパー・リアリティやシミュラクラといったものが、いかにポストモダン性を孕みながら、文学的想像力と相互交渉を持つかといった問題を中心に考察を進めた。 その結果、高度情報化資本主義社会においては、「群衆」の生成と相まって、自己増殖を繰り返してやまぬオリジナルなきコピー、シミュラクラが、ベンヤミン的アウラに取って代わるポストモダン・アウラとでも言うべき妖しい光彩を放つことがわかった。そしてそのことを、現在最も影響力のある現代アメリカ作家の一人であるドン・デリーロのベストセラー『リブラ』のテクスト分析によって具体的に検証し、「ポストモダン・オズワルド、ポストモダン・アウラ---JFK暗殺とドン・デリーロの『リブラ』」という論文にまとめることができた。 完成年度に当たる次年度は、これまでのメディア研究を総括するとともに、「廃棄」という新たな観点から、 「現代アメリカ文学におけるメディアと死の関係」という本基盤研究のテーマを逆照射することによって、研究をさらに進めていく予定である。
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