完成年度にあたる平成十一年度においては、これまでの二年間の研究成果を踏まえつつ、時空感覚の喪失をもたらす高速道路や自動車、飛行機といった速度、交通メディア並びに、都市空間、摩天楼、スタディアムといった空間メディアと文学との関係に関する考察を、様々な文学テクストの分析を通じて行う一方で、本研究計画の眼目である「現代アメリカ文学におけるメディアと死の関係」を、体系的にまとめる作業に入った。その過程で、電子、消費、複製、速度・空間のいずれのメディアの分野においても、ドン・デリーロの『アンダーワールド』(一九九七年)が、ベンヤミン的アウラに取って代わるポストモダン・アウラと言うべきスペクタクルの有りようと死への眼差しとの関係を解明しようとする本研究において極めて重要な位置を占めることが判明した。『アンダーワールド』に関する本研究の成果の一端は、平成十二年十月に同志社大学で開催される日本アメリカ文学会第三十九回全国大会シンポジウム「二つの世紀末--意識と表現」にてシンポジウム講師として発表する予定である。 また本年度末には、本研究のテーマと密接に関連するドン・デリー口のペン・フォークナー賞受賞作『マオII』(一九九一年)の翻訳を終え、上梓することができた。
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