本研究は、メディアの変容は世界を思考する身体技術の変容あるという認識のもとに、先行する文学周縁領域のメディア研究を踏まえたうえで、多様なるメディアがポストモダン時代の死への眼差しとどのように関わっているかを、広範に現代アメリカ文学の文学的想像力のなかに探ろうとするものである。初年度はコンピュータ、電話、映画、ラジオ、テレビ、インターネットといった電子メディアを中心に、次年度は巨大な消費の殿堂であるスーパー・マーケットやショッピング・モールといった消費メディアと、イメージの消費を促すポップアート、写真、広告など複製メディアに焦点を絞り、完成年度は時空感覚の喪失をもたらす高速道路や自動車、飛行機といった速度、交通メディアと、摩天楼、スタディアムといった空間メディアに注目しながら、メディアが実現するハイパー・リアリティーやシミュラクラといったものがいかに現実におけるノイズとしての死の隠蔽とそれに対する眼差しと関わるかという問題を中心に考察を進めた。 その過程で、現在最も影響力のある現代アメリカ作家の一人、ドン・デリーロの作品群が、ベンヤミン的アウラに取って代わるポストモダン・アウラと言うべきスペクタクルの有りようと死への眼差しとの関係を解明しようとする本研究において、極めて重要な位置を占めることが判明した。後期資本主義における新たなる「群衆」の生成を背景に、自己増殖を繰り返してやまぬシミュラクラと死の神秘化についての分析を基軸に、本研究は、その成果を、「ノイズから『ホワイト・ノイズ』へ----死がメディアと交わるところ」『自己実現とアメリカ文学』(晃洋書房、1998)、「ポストモダン・オズワルド、ポストモダン・アウラ---JFK暗殺とドン・デリーロの『リブラ』」『英米研究』第23号(大阪外国語大学英米学会、1999)、並びに日本アメリカ文学会第37回全国大会の研究発表に基づく「『群衆』の時代と小説家の肖像---Mao IIにおける死とメディアの神話学」『藤井治彦先生退官記念論文集』(英宝社、2000)の三つの論文にまとめることができた。
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