本研究は、これまで体系的な研究に乏しかった複合語の音韻構造を対照言語学・一般言語学的な観点から考察し、他言語との比較から英語の複合語音韻構造の中の普遍性と言語個別性を明らかにすることを目的としている。今年度は英語と日本語の複合語アクセント(強勢)規制の内容を比較検討した。日本語については、東京方言・近畿方言・鹿児島方言の三つの方言を分析の対象とした。この研究によって次の3点が明らかになった。 1 日本語のアクセント現象の記述・説明のためには、従来から言われてきたモ-ラという単位に加え、音節という単位が不可欠であり、この単位を用いて分析することにより、日本語と英語のアクセント現象に見られる抽象的なレベルでの共通性を捉えることができる。この共通性はおそらく言語の一般的な特性であろうと予想される。 2 複合語を構成する二つの要素のうち、どちらのアクセント(強勢)が複合語のアクセント(主強勢)として生き延びるかを対照言語学的観点から考察すると、多くの言語において複合語の修飾語(modifier)が主要部(head)を統率するという共通した特徴が観察される。ただし日本語の東京方言はこの例外となる。 3 複合語として音韻的にまとまるかどうかというアクセント句形成の問題を考察すると、アクセント規則において大差を示す日本語の諸方言の間にほとんど差がない。このことは、複合語アクセント規則そのものは異なっていても、その適用範囲は方言間で共通していることを示唆している。
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