今年度は日本語の連濁、母音融合、アクセント句形成の三つの観点から複合語の音韻構造を分析した。 1. 日本語の連濁という複合語音韻規則について、この現象が漢語や外来語では起こりにくく和語に起こりやすいという事実に対して、その理由を理論的な観点から検討した。この結果、(1)漢語や外来語では清濁の対立が存在していたのに対して和語では対立がなかったということ、(2)他の音韻現象をみても和語の方が他の語種よりも入力構造に忠実であろうとする力が一般に弱いこと、以上二つの要因が働いていることを明らかにした。 2. 母音融合については、「蝶々」という反復複合語が「てふてふ」から「ちょうちょ(う)」へと母音部分の発音を変えたという歴史的事実を、「痛い」が「いてえ」となるような共時的母音融合の現象と比較し、両者が単一の音声過程として記述できること、その記述に音声素性という概念が不可欠であることを明らかにした。 3. 「鹿島アントラーズ」という複合語が単一のアクセント句にまとまり、一方「ジュビロ磐田」が複数のアクセント句に実現するという事実をてがかりに、アクセント句形成の原理を考察した。この結果、なじみ度や語構造(構成素構造)などの要因に加え、語順と構成要素のアクセント型が関与していることを明らかにした。語順については、この要因が日本語の一般的な語順と関連し、またそれがさらに複合語構成素間の意味関係と関与している可能性を考察した。 今後は、日本語に観察された上記1〜3の現象・構造が、日本語と系統や体系を異とする言語についてどの程度当てはまるものかを検討したい。
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