ハワイにおける日系移民の文学を、19世紀の移民時代から21世紀のポスト・コロニアル及びグローバル時代にかけて、ハワイ独自のローカル文学の誕生と構築にあわせ、各時代の作家とその作品を分析し、その文学体系を探求した。まず、最初にローカル文学の運動が始まった1970年代後から1980年代前半の、日系、中国系三世を中心とするTalk Story Conferenceの開催とBamboo Ridge Pressの設立を当時の文献や、設立者であるDarrell LumやMarie Haraにインタビューをして、アメリカ文壇のカノンを読み直したアジア系アメリカ文学とも異なり、また従来のポリネシア系ハワイ文学とも異なるハワイのローカル文学の特性を調査した。さらに、日系による文学をイデオロギーに基づいて探求し、一世が日本という祖国を文化遺産とした上でプランテーション生活から産み出した口承文学であるホレホレ節や短歌、俳句、川柳におけるコロニアルの語りを分析し、移民から定住へという変化の中で文学体系の基礎が確立されたことを発見した。さらに、プランテーションとその社会構造とコロニアル生活からの離脱という新しい空間構築の中で、英語化とアメリカ化された二世による脱コロニアルの語りを分析し、そこに英語というより広い読者層を対象とする言語を武器にハワイの日系を中心とするコミュニティーを描くという日系の文学体系の過渡期を探求した。最後に、三世の文学を、一世が構築したコロニアルの語りを再現し、二世による脱コロニアの語りを再構築するという視点から読み、ハワイのローカル性を破壊するマスメディアとコマーシャリズムの影響下でグローバル・コミュニケーション時代に反発し、よりローカル・アイデンティティの確立を目指してポスト・コロニアル時代にハワイという空間に引き続き内在するコロニア性を描いた文学として分析した。その中で、特に第二次世界大戦とハワイの関係を442部隊に代される光の部分から太平洋戦線に送られた軍情報部という影へ、極東への巨大軍事基地としてのハワイの葛藤、プランテーション崩壊の影で見失われていた津波によるヒロの日本人町の破壊、さらにはホノルルの巨大資本による観光化に付随した都市化の問題、多民族性の受容などを中心に三世作家の作品を論じた。結論として21世紀におけるローカル文学のより発展的な可能性を示唆した。
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