前年度(1997)の補助金追加決定を11月に受けて研究開始がずれ込んだため、平成10年度開始の研究計画もそれに伴い遅れ気味になってきた。遅れを取り戻すつもりで当初の計画通り、8月末にペンシルヴァニア州立大学教授のジェイムズ・L.W.ウェスト3世とヴァージニア大学教授のレイモンド・ネルソンに、研究計画のレヴューを受けた。スタイロン研究の第一人者であるウェスト教授が6月に出版したウィリアム・スタイロンの浩瀚な伝記は、私の研究に大きな刺激になった。しかし、レヴューまでにその伝記を精読し、疑問点、質問点を整理するのに、予想以上に多くの日数を要してしまった。彼からはスタイロンの宗教的背景、継母との緊張した関係等について、伝記の中では十分触れていない詳細な情報を取得し、ネルソン教授からも作家の出身地であるヴァージニア州タイドウォーター地方の精神風土や、フォークナーの遺産を考える場合のシャーウッド・アンダソン文学の重要性について教わり、黒人に関してスタイロンの作品に表出する神秘主義的特質をアンダソンや1920年代の文学との関連で捉える必要性を指摘された。その指摘を受けて、以前からフォークナーとヘミングウェイの文学との関係で貯めていた資料をもとに、アメリカ文学におけるアンダソンの位置について論文をまとめた。アンダソンに関する本を出版する計画を持つグループと接触を取ることにより、彼らの勧めで拙論をその評論集に収録してもらうことができた。執筆の途中になっている『闇に横たわりて』(Lie Down in Darkness)と、読了したままの『この館に火をつけよ』(Set This House on Fire)という大きな両長編小説についての論文作成の作業は、ウエスト教授から恵贈された貴重な資料も使うことによって、平成11年度の前半期に仕上げ、もしその進行で時間的にゆとりができそうであれば、彼の中編と演劇と短編集についての論考を後半期に行いたい。
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