この研究では、19世紀前半の合衆国における文化啓蒙活動の組織(ライシーアム)について調査し、当時の作家ヘンリー・ソローがライシーアムで行なった講演と、彼の実際の作品との関係を主に取り上げた。特に彼の代表作『ウォールデン』と、それ以降の後期作品を主な対象とした。例えば、『エクスカーション』という作品中の「ウォーキング」というエッセイに注目し、この作品と彼の講演原稿との関わり、講演中に朗読された自作の詩の効果等の研究を論文化した。当時の自然科学思想や自然環境観のソローへの影響、及びソロー自身の原生自然体験や彼の自然観の特色については、主に『メインの森』という作品を対象にして研究した。メイン州の原生林地帯を探検したソローのメモ、それを基にした彼の講演活動、さらにそれを実際の作品に仕上げていった際の状況、これらのプロセスをたどり、各々の制作段階において原生自然のテーマがいかに取り上げられ、発展させられているかを検討し、論文化した。さらに、ソローのネイチャー・ライティングの作品中、『月』(彼の日記からの抜粋集)を対象にし、当時の天文学についてのソローの知識や関心、及びそれらと彼の自然観・人生観との結びつきを研究した。この作品の主要部分はやはりライシーアムで「夜と月光」という題で講演されており、この講演が作品に及ぼした効果についても検討を行った。このようなテーマは、今後も、ソローの後期作品の各々において引き続き研究対象としてゆく予定である。その他、ソローと関係の深い20世紀の自然作家ジョン・ミューアの作品にも取り組み、ヨセミテの山域についての自然描写の特徴と、ミューアの原生自然観についての研究を行い、あわせて解説記事の執筆を行なった。
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