従来のソノリティ・ハイエラーキを別の角度から補強できると思われる調音可能性のハイエラーキという筆者の主張する概念は、音韻論、音声学、心理言語学、さらにはそれらを総合した言語教育への波及効果があるものと予想している。音節構造、音声連鎖への制約や、音声変化、言い誤りの一要因となることが予想できるからである。 昨年に続き、その裏付けをとるための基礎研究として、基礎データの収集とその分析を実施した。謝金を活用して、院生等に吹き込みや分析の作業を手伝わせた。吹き込み方法が面倒で、私の実験の目的に合致させるには相当、基礎訓練が必要なので、実は、簡単に誰でもというわけにはいかないのが難点であるが、謝金の対象をしぼって信頼できるデータがとれ、分析できるようになるまで訓練した。英米人についても、同様の問題があるが、対応できる人をひとり得られた。旅費と謝金はそのために役立てた。 筆者の研究は他分野の研究者からも注目され、調音可能性ハイエラーキ、音声ハイエラーキを応用した研究がこの1年間に大きく進行した。心理言語学者の寺尾康氏との2本の共著論文は、その成果である。その内の1本は国際音声言語処理会議での発表であるが、多数の学際的な研究交流が可能となった。筆者が悩んでいた音節境界の設定方法の問題についても様々な意見交換ができたし、言語学者や音声学者だけの学会発表とは別の角度から参考にすべき知見がえられたのは、貴重な体験であった。勿論、日本音韻論学会での専門家どうしの意見交換は、それはそれで、役だったことを認めたい。
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