調音可能性のハイエラーキという筆者の主張する概念は、音韻論、音声学、心理言語学、心理学、さらにはそれらを総合した言語教育への波及効果があるものと考えてきた。その裏付けをとるための基礎研究として、今年度も引き続き基礎データの追加収集とその分析に力を注いできた。 愛用しているSound Scope 2というアメリカ製の音声分析装置は、高度で精密な分析を可能とするが、個々の解析にはかなり手間取るのが実状で、昨年度収集したデータの解析も引き続き実施した。 勿論、昨年度までにえられたデータの補強も行った。録音と分析の方法が面倒で、私の実験の目的に合致させるには相当、基礎訓練が必要なので、実は、簡単に誰でもという訳にはいかないのが難点であるが、謝金の対象をしぼって信頼できるデータがとれ、分析できるようになるまで訓練した。旅費と謝金はそのために役立った。調音可能性の度合いの研究と他分野の関係、さらには語学教育への応用をさぐってきた。さらに、心理学者玉岡賀津雄氏との共同研究でも、私の提案する音声ハイエラーキを応用して、従来心理学の分野で等閑視されていた文字の処理速度と音声の質や音声連鎖の特性との関連が初めて解明されつつある。私の提案した音声ハイエラーキや、調音可能性のハイエラーキが単なる理論的な仮説でないことを証明すべく、今後も努力を続けたい。
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