研究課題
本研究は、生成文法理論で仮定されている言語の構造的概念と意味的側面の脳内基盤がいかなるものかを探るために、失語症や事象関連電位(脳波)による実証研究を行い、言語の認知脳理論の構築を目的とした。本年度は、生成文法の最新理論である「極小理論(ミニマリストモデル)」の枠組みを用いて、Hagiwara(1995)で明らかにされた失文法失語症のデータや、Hagiwara et al(1998)により解明された語の脳内処理機構、それに本年度の研究の一部として実施した事象関連電位による言語の意味的逸脱文と文法的逸脱文の研究成果をもとにして、言語の認知脳内基盤のモデルを提示した(萩原、1998)。まず、語の貯蔵庫である「レキシコン」は、左半球側頭葉中下回から内側面にかけての広い領域で表示および処理が行われており、「言語の計算システム(Computation)」の内、「選択」にはウェルニケ領域から左角回にかけての領域が関与していると思われる。「併合」という操作は、言語によって異なった脳部位で行われる可能性が示唆された。主語と述部での文法的一致現象(人称、性、数、格)のない日本語では、ウェルニケ領域および角回にかけての領域が関与し、ドイツ語、英語などの一致現象のある言語では、ブローカ領域が関与している可能性がある。計算システムの中核である「牽引・移動」は、言語の違いにかかわらず、ブローカ領域が深く関与していることが示唆された。今年度提案したモデルの妥当性は、今後さらなる研究によって検証され、修正されうるものである。
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