研究概要 |
本研究は、生成文法理論で仮定されている言語の構造的概念と意味的側面の脳内基盤がいかなるものかを探るために、失語症や事象関連電位(脳波)による実証研究を行い、言語の認知脳理論の構築を目的とした。本年度は、申請研究課題遂行の最終年度にあたるため、すでに得られた結果のフォローアップ調査をするとともに、過去2年間の成果の集大成をまとめた。また、本研究により新たに浮上してきた問題点や今後のテーマの整理・検討をおこなった。具体的な成果としては、1)言語の構造的処理については、これまで広く知られているブローカ領域の他に、左側頭葉ウェルニケ領域の関与を示唆するデータが、事象関連電位の研究により報告された(Hagiwara et al.,2000)。これは、従来の考え方を覆す発見であり、今後さらなる追実験が必要となる。また、欧米の文献調査を行い先行研究を検討した結果、文の長さや多義性を統制することにより、文法システムに特異的な処理方式が存在することが明らかになり、それは文処理のワーキングメモリー(作業記憶)とは異なったシステムである可能性が示唆された。言語の意味的側面については、失語症の実験より連想記憶や類推といった処理方式と、統語処理方式とは異なった脳システムによって支えられている可能性が示唆された。今後の課題として、動詞の項構造、語彙概念構造が、統語構造にどのように反映されているのかを探る必要があり、すでにこの件については使役構文について失語症患者を対象とした調査を開始している。
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