社会的、文化的カテゴリーであるとともに政治的なカテゴリーであるジェンダーが社会ごとに異なって規定される以上、「女性性」や「男性性」も性的秩序を求める要求に応じて社会ごとに捉え方が異なるものである。産業革命前夜と言われる英国18世紀前半の家父長制度の下では「支配される側」の役割とそれに適った「女性性」の男性による押し付けが顕著であったとされているが、その役割と「女性性」に対して疑問を感じた女性がいなかったのか、いたとしたらどのような声をあげたのかなどを見ることから本研究は出発した。そして、本研究の目的は、小説やコンダクトブック、定期刊行物など多種多様な資料においてジェンダーがどのように表象されているかを明らかにすることである。 本稿Iでは、18世紀ロンドンにおいてブルジョワ男性が主体となって創り上げた都市文化で男性優位文化を確立したことを見ていった。しかし、定期刊行物を媒体とし、コーヒーハウスを場とした上層文化興隆の陰で、南海泡沫事件に象徴される投機と、消費という経済分野でのエピソードから、女性が経済、商業活動に関して主体性を帯びていったことを示した。 IIにおいては、コンダクトブックや定期刊行物において、いかにジェンダーが規定されていたかについて見ていった。それら広義でのコンダクト・カルチャーは、日常生活での礼儀作法や服装は勿論、同時に「理想的な」女性像を打ち立てるのに多大な影響力を発揮したのである。 IIIでは、小説という新しい文学形式を通してジェンダーの表象を見ていった。デフォーやリチャードソン、フィールディングなどの男性作家による作品のヒロインの「女性性」を追っていくことで、当時の男性が望む女性のイメージが読み取れた。
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