日頃、フランス文学・思想を専門に研究する我々自身でさえ、六角形のフランス本土の外、すなわち旧植民地や海外県、海外領土で繰り広げられているフランス的現実に対しては関心がはなはだ稀薄だったのではないかという反省、そして、これまでそれぞれの専門研究の場で断片的、散発的に遭遇してきた「フランスの外のフランス」を一度「植民地文学」という大きな枠組みでとらえ直しておかなければ大きな片手落ちになりかねないという危機意識から、本研究の主眼は、「海の彼方」(d'outre-mer)のフランス文学史を切り開くための具体的な条件を整えることにあった。 最終年度、平成11年度も、個々のテクスト研究に先だち、なによりも現在の日本には不足しているフランス植民地関連の文献調査の面で大きな収穫を得た(フランス植民地全体史の基本文献、および、地域を当面カリブ海一帯に絞った文献調査)。インターネット経由で、最近フランスで公開され始めたさまざまな文献データベース(FRANTEXT、OPALlNEなど)に接続し、また、近年発売されたフランス国立図書館総合カタログCDロム版を活用することにより、網羅的な資料調査の手段が確立された。 その上で、主にハイチ、マルティニック、グアドループ、ギアナを対象とした「フレンチ・カリブ通史」の素案が形をなし、いまだ地域的に見ると部分史たらざるを得ないものの、16世紀から今日まで時間の流れに即した歴史研究、文学史研究に実際に着手することができた。
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