研究概要 |
本年度の研究活動は,各自が先年度に立てた問題系を,一層掘り下げて考察することを中心にすすめられた。年度半ばには,西村による口頭発表がおこなわれ,カントの「原則の分析論」に登場する「零(ゼロ)」の観念との対比において,デカルトの形而上学にあらわれる「無」の観念の役割が分析された。カントによる「零」の定義は欠性的な無nihil privativumであり.デカルトの「無」は否定的な無nihil nagativumである。この落差は,そのまま,カントによる古典的形而上学(合理的神学)批判の重大性に対応している。しかし,それにもかかわらず,ちょうど「零」の定義によってカントの超越論的論理学が「起源の論理」になるとされるのと同じように,デカルトにおいても, 「無」の定義とともに,我々はあるという限りにおけるあるもの一切を全面的にその起源たる神に関係づけて論ずる手だてを手に入れるのではないか,そしてこれがcreatio ex nihiloの論理構成ではないか」という問題提起がなされた。このことは,デカルトにおいても,ある意味では決して表象されえぬ「無」の観念がかえって無ではないもの,つまりあるもの一般の表象ないし知的な把握の可能性の条件をなしていることを示している。この発表は, 「闇」の表象と「光」の表象のあいだに成立する逆説的関係という問題系につながるものであった。この発表以降,各自は個別の研究に専念しながら,個別的問題と一般的問題との接点を探りつつある。今春以降は,論文執筆の作業に入り,99年度中には成果を論文集としてまとめる予定である。
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