まず、データベース作成のための環境整備(ハード面とソフト面)を行いつつ、以下のような研究を行った。 1.ベンヤミン研究に関しては、内外のベンヤミン研究を調査しつつ、(1)「物語」と「メルヘン」の意味、(2)「弁証法的イメージ」としての過去の像について研究を行った。 (1)については、神話、メルヘン、物語等、ジャンルの意味を整理し、現代のアニメや子ども向けテレビ番組と比較した。現代のメディアの中の「お話」の基本構造を見ると、かつてのメルヘンと共通するところが多く、いわば、魔法のかわりにテクノロジーを使ったメルヘンという趣を呈している。しかし、そこで決定的に欠落しているのが、声による語り、いや声だけではなくて、目や手、息づかいによる共同作業としての「語り」である。そこでこそ、話し手と聞き手の間で経験と物語が共に紡がれ、織られ、手渡されていくのだ。このような「語り」を回復しようとする欲求と力を、実は子どもたち自身、本来もっているのではないか、というのが現在のところ私の推論である。この問題について考えるために、児童文学者であり作家である石井桃子氏にもインタビューを行った。(2)については、ベンヤミン思想の核として、そしてまた現代における歴史的認識の可能性として今後も研究を続けていく予定である。 2.20世紀イメージ研究としては、日本とドイツの1930〜40年代のプロパガンダに関する資料を多く収集し、特に、この間の映画やラジオについて研究した。その結果、大衆の無意識を集団へと収斂させていく時の心情、論理、技法が、日本とドイツ、さらにはアメリカにおいては大きな違いがあること、また、実際の作品を細部にわたって見ていくと、プロパガンダ映画や雑誌の中にも、公式的扇動からすり抜けていく感情の流露や抵抗、サボタ-ジュなどが含まれていることが分かった。
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