中世期のドイツ語に比して、現代ドイツ語における文の統語構造は、枠構造、冠飾句などに見られるように、極めて複雑で特異なものとなった。これは、近世以降、社会の情報化に伴い、文書によるコミュニケーションの重要性が高まり、ドイツ語が話し言葉的統語構造から、書き言葉的統語構造へ移行していったことの結果だと考えられる。 本研究の目的は、複雑な情報を簡潔で正確に伝達するという目的のために、複合文を形成する接続詞の体系が中世期以降どのように組み替えられ、意味的、機能的に分化、整備されてきたかを究明することである。 平成10年度は、次のような作業を行った: 1) 研究補助者を使って、16世紀のテクストの代表例としてルターの著作を選定し、接続詞を含む複合文を収集し、データベースの充実を図った。 2) 収集した複合文を接続詞の機能によって分類した。 3) ケーススタディとして、条件文を作る接続詞の分析を行い、その歴史的展開の記述と要因に関する考察を論文にまとめた。 4) 98年10月13日-18日、ボン大学の近世ドイツ語テクストコーパスの選定と構築にあたったWalter Hoffmann博士を日本に招聘し、武蔵大学において近世ドイツ語テクストの解読に関する指導を受けた。 5) 10月16日および17日、京都大学において、近世ドイツ語研究の現状に関するW.Hoffmann博士の講演会を開き、参加した研究者間で意見・情報交換を行った。
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