本研究の目的は、近世以降の社会の情報化に伴い、文書によるコミュニケーションの重要性が高まったが、複雑な情報を簡潔で正確に伝達するという目的のために、複合文を形成する接続詞の体系が中世期以降どのように整備されてきたかを究明することである。 近世ドイツ語のテクストコーパスを分析し、中世および現代ドイツ語と比較して得られた知見は以下の通りである。 1)中世から現代ドイツ語にかけて、従属接続詞体系の変化はかなり激しいものがあったが、その中核的な部分はあまり変わらなかった。 2)中世および近世ドイツ語では多くの従属接続詞、とくに、中核的なもの、はいくつもの変異形を持っていたが、現代語に至って整理された。 3)中世および近世ドイツ語では多くの従属接続詞、とくに、中核的なもの、は多義的であったが、現代ドイツ語に至って多くのものが一義的になった。 4)現代ドイツ語では、近世ドイツ語に比して、従属接続詞は形態的に短い形が多用され、迂言的な形式のものも単一語化される傾向にある。 5)現代ドイツ語ではコンテクストに依存しない意味的に明快な形式が好まれる。 6)全体として、現代ドイツ語は変異形が整理され、多義性が減少し、コンテクストに依存せず、情報を言語的に明示する傾向が強まったと言える。 7)以上のようなドイツ語従属接続詞の発展に見られる諸現象は話し言葉よりもむしろ書き言葉に見られる現象である。 8)従って、ドイツ語は、近世ではまだ話し言葉的性格が強かったが、現代語に至って書き言葉的性格を強めたと言える。
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