本研究は、19世紀後半以降の芸術上のモダニズムと「ナショナルなもの」との関連を探ることを中心的テーマとしている。1871年「ドイツ第二帝国」が成立する。ドイツにおける近代国家には19世紀後半という特徴が刻印される。一方に近代的システムの推進力となってきた「科学・技術」信仰と産業資本主義的システム、他方で他の西欧諸国との違いを強調する「精神的」ドイツ性の強調である。産業資本主義的合理化の進行によって経済的・社会的領域の生活世界の植民地化が明らかになると、それへの反動のように自律化していく「文化」の領域へ加熱した期待がかけられていく。19世紀後半におけるモダニズムはこれをエネルギーとして展開していく。遅れて出発したドイツにおいては、この「文化」への負荷のかかりかたは他の西欧諸国より大きかったといえる。「政治」「社会」という領域から離陸した「文化」の領域は、消費と私的生活へと移行していくことで新たな価値領域となって、孤立化した魂の「内面性」を表すものとして復権していく。「ナショナルなもの」もこの領域にすくい上げられることによって、内面的・精神的「帰属」の代替形式として、国民的感情の共同体の「表象」の地位を得ていき、拠り所を失い孤立した精神の存在根拠を与えるものして、モダニズムの内面領域との交錯を見せるのである。
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