ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)の極右現象のうち、特にドイツ連邦共和国を中心に研究をした。ドイツ統一後の極右暴力の劇的増加は80年代から極右を観察してきた専門家にとっても予想外であったが、一連の極右事件は一つの歴史上のエピソードか、それとも新しい右翼的ナショナルな動きとして理解すべきか。分析の結果、後者であること、すなわち、統一後、ドイツ人の意識に大きな変化が起こり、それが定着し始めていることが判明した。 かつてに比べて、ドイツ人の人権意識が後退し、ナショナルな要素が政治を動かし始めている。異質なものに対する寛容度が減少し、その結果、外国人にとって、とりわけ非欧米人にとって住みにくい国になってきている。激しい極右暴力は今日、確かに減少したが、極右事件の件数は依然として統一前とは比較にならないほど頻発している。しかし、事件をマスメディアが取り上げない傾向にあるので、一般には極右事件は劇的に減少し、ドイツ社会は正常化したとの印象が生まれている。 このような中で、昨年、ドイツ連邦軍内における極右事件が次々に発覚した。現在、連邦議会に特別委員会設置され調査が開始されているが、驚いたことにこの3月、連邦軍大学の歴史学大学教授が極右グループ主催の会で講演した。ある新聞の報道で明るみに出たが、進歩的と言われる日刊紙も含め、大半の新聞はこのことを報道しなかった。また、さらに例をあげれば、今年始めには、体制批判的言われている作家がCSUの党大会に招かれている。ところが、ジャーナリズムはこのことを殆ど問題にしない。このような事実はドイツが変質したとの印象を強める。今後の研究において、この変質の原因を多面的に徹底的に究明する必要がある。
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