申請者はすでに平成7・8年度一般研究(C)科学研究費補助金の枠組みで「ベルリンの墓地・埋葬形式ー近代的〈バイオ権力〉の発動の場としての都市空間の諸相」というテーマで研究を進め、十八世紀末以降におけるベルリンの墓地・埋葬形式をとりあげ、公衆衛生・死生観という角度から、近代化の過程をエピステモロジカルに分析してきた。ベルリンは都市空間として、公衆衛生はバイオ権力の発動形態として、また埋葬形式は衛生問題の具体的かつ本質的事例として、研究目的にもっとも適しているからである。本研究では、この先行研究の実績を踏まえ、墓地・埋葬形式というこれまでのテーマと隣接した都市現象のフィールドに視点を拡大し、言説・表象の近代化プロセスをより体系的に検討している。 具体的には、1840年から1945年までの期間において、ベルリンにおける公衆衛生問題の典型として、〈一八八三年ベルリン衛生博覧会〉〈公設市場の設置〉〈ミルクと中央衛生局〉〈ゴミ収集システム〉という四事例を選び、公衆衛生という「専門的」言説から発しつつも、新聞、雑誌ならびに文学といったメディアにより流布された「健康」の図像を通して、生命と死をめぐり新しい言説の枠組みが「総体的・総合的」に都市空間をおおっていくプロセスを、表象の近代化という大きなフィールドから分析、評価できてきている。そこでの分析結果は、平成9年度すでに学術雑誌、新聞等において連載枠を確保し(大修館書店月刊『言語』連載「都市と近代」、『図書新聞』連載「書物のアナトミ-」)継続的に発表しつつあり、ひとり申請者が専有することなくまた学会のみならず広い言論界へとフィールドバックし、一般の読者にも公表している。
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