本研究では、申請者自身の先行研究に立脚しつつも、墓地・埋葬形式というこれまでのテーマと隣接した都市現象のフィールドに視点を拡大し、言説・表象の近代化プロセスをより体系的に検討することをめざした。このため具体的には、ベルリンにおける公衆衛生問題の典型として、<一八八三年ベルリン衛生博覧会><公設市場の設置><ミルクと中央衛生局><ゴミ収集システム>という四事例を選び、1840年から1945年までの期間において、それぞれ(a)数値的、空間的変容、(b)法的、行政的規制、(c)文化的慣習、(d)宗教的、経済的付加価値、(e)メディアによる伝達のされ方、(f)そうした情報が、同時代の生命観・衛生観をめぐるディスクールへのフィードバックのされ方を体系的に追った。そうすることで、数値的な具体的データが、ついには理念的あるいは文化的無意識のレベルに吸引されていくダイナミズムをさぐり、単に数値データにとどまらず、生命および健康問題をイメージ化し、図像化する表彰プロセスまで視野にいれることができた。 これまでの先行的な検討作業を通じて、申請者は公衆衛生という「専門的」言説を通して、生命と死をめぐり新しい言説の枠組みが「総体的・総合的」に都市空間をおおっていくプロセスを、単に歴史的・社会学的視点からではなく、表象の近代化という大きなフィールドから分析、評価できた。それにより、ベルリン都市空間と近代という限定的な問題定立にとどまらず、都市の分析を表象一般というより広範な問題領野に関連づけることができ、ロンドン、パリ、ニューヨーク、ミラノ等を対象とし、<固体>の近代化と<マス・群集>の近代化を体系的に捉えることが可能となり、そこでの分析結果は、単著書『モノの都市論』(大修館書店)刊行という形で、ひとり申請者が専有することなくまた学会のみならず広く言論界へとフィードバックし、一般の読者にも公表している。
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