研究概要 |
本研究は1920年代ドイツにおける精神史的文学研究と同時代の日本の文化科学・文芸批評のディスクールを対象とし,理論史と制度史を統合した視点から両者の比較・対照を行うことを目的として行われ,主として以下の点で新たな成果・知見が得られた。 1.基礎資料の把握と収集:今回とくにドイツにおける資料調査・収集に意を用い,ニーダーザクセン国立図書館(ゲッティンゲン),ケルン大学図書館,ボン大学図書館,ドイツ文学資料館(マールバハ)に所蔵のドイツ文学の学問史,とくに制度史にかんする資料の把握と収集において成果をあげることが出来た。収集・整理した資料は目録化を目指している。 2.理論的著作の分析:精神史的文学研究の代表的研究者,Unger,Mahrholz,Maync,Gundolf,Cysarz等の理論的著作の分析を行い,精神史的研究として従来一括されてきた学派内部の理論的相違を明確にするとともに,そのような理論史的相違が講座の制度史的発展と相関的に記述できることを明かにした。一方日本における欧米文学理論の移入史も,実証主義的歴史主義に対する「学問ジャーナリズム」的立場の自覚化という制度史的視点から十分に有意味的に再構成しうるとの結果を得た。しかし20世紀における学問分化編制を歴史的に把握するためには,文化史的側面,とくにメディア的条件の分析が不可欠であることを認識した。本研究をこのような意味で今後文学研究の制度史とメディア史の統合として発展させる必要があると痛感した。 3.日独比較・対照研究のための理論モデル構築:異なった文化伝統間の学問文化の比較・対照において有効性の高いモデル構築のために,システム理論と学問史の統合が不可欠との認識を得ることができた。
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