研究概要 |
ゴルドーニの戯曲作品の内に当時のヴェネツィアの政局や社会的事件の反映を読み取る試み. 1)ゴルドーニが自分の作品の中で当時の政局や社会的事件に直接言及けた例は全くない.しかし,当時のヴェネツィアの観客が,作者の意図のあるなしに拘わらず,彼の作品の内に当時の政局や事件の反映を読み取り,その劇自体になまなましい現代性と同時代性を感じた可能性は大いにある.その1例は,1761年の政度である.この頃ヴェネツィア共和国では,大貴族への富の集中と中小貴族の零落が進行し,アンジェロ・クェリーニを中心とする血気盛んな若手不満分子が体制改革と富の再配分を求めて制度を企てていた.この政治危機に対処するために,政府は大貴族フィスカリーニを中心とする5名の《矯正委員》を選出し,事件は若手不満分子の逮捕によって結着となった.保守派と良識派の勝利である. 2)この新旧両世代の間の議論が激しかった時期に,ゴルドーニは『別荘3部作』を上演している.この物語は,上層市民階級の気の強いジェチンタ(新世代の自由擁護主義者)と,その文の友人のフルジェンツィオ(伝統的な市民道徳と家族観の擁護者)の思想的対立を軸に展開され,この両極の間を彼女の父と恋人が右往左往するという構図を持っている.その結論は,ジャチンタの屈服と伝統的家庭観の受入となる. 3)当時の観客は,若い大胆なジェチンタの内に当時の急進改革派を,老フルジェンツィオの内にヴェネツィアのの伝統的自由と良識の擁護者であるフォスカリーニ派を認めていた可能性は大いにある.そして,常にヴェネツィアの観客のために戯曲を書き続けたゴルドーニも,観客一般と同様に体制派を支持したことが,資料から知られている.
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