研究期間の第2年目に当る平成10年度には南インドの国際タミール研究所に各員教授として招聘(1998.1月-3月)された事もあり、インド諸語版ラーマーヤナの内容精査に専念した。その結果、次のような事実が判明した。 1、 インド国内にはヴァールミーキ版の流れを汲むラーマーヤナの系列がある。例えば、タミール語版、ベンガル語版、アッサム語版、オリヤ語版、テルグ語版等である。 2、 同じサンスクリット語で編纂されたとは言うもののその内容がヴァールミーキ版よりは簡縮化された形のものとして15世紀に成立したアドヤートマ・ラーマーヤナがある。現代インド諸語版の中には、このアドヤートマ版の流れを汲むものもある。ヒンデー語版、マラヤーラム語版等がそうである。この系列に属するラーマーヤナの特徴は、ヴィシュヌ神への信仰、帰依がヴァールミーキ版以上に強烈に表現されている事である。 3、 ヒンドウー教を背景に成立した上記1、2とは別に、ジャイナ教を背景とするラーマーヤナの一群がある。プラークリット語によるパウマ・チャリヤやヴァースデーヴァ・ヒンデイ、及びカンナダ語版等がそうである。これらの版の特徴は、主要登場人物の全てが熱心なジャイナ教徒だとされている点である。 4、 インド諸語版ラーマーヤナの中にはその独特のエピソードから見て東南アジアのラーマーヤナに直接影響を与えたと考えられる版がある。テルグ語版からマラヤ版ヒカヤット・スリ・ラーマヘ、タミール語版からタイ語版ラーマキエンへ、ベンガル語版からビルマ語版へと言った複数の交錯した関係が窺われる。
|