韓国人日本語学習者による日本語のピッチアクセントの知覚については、日本語がモーラ、韓国語が音節という基本的な知覚単位の違いが結果に現れている。また、統語的にあいまいでパラレルな構造を持つ文の日韓対照では、日本がピッチをあいまいに性解消に用いるのに対して、韓国語では、持続時間を延長してそれに対応していることがわかった。しかし、方言まで対象を拡大すると、日本語の無アクセントの仙台方言、韓国語のピッチアクセントを未だに残す慶尚道方言では、それぞれ持続時間とピッチを用いている点で東京方言やソウル方言と逆転した傾向を示す。理論面では、日本語の音調情報を構成的に扱うに当たっては、互いに相いれない二つの統語構造からの情報を統合することがもっとも困難な課題となっているが、Autonomous modular grammar の枠組みを提案し、二つの独立した統語論的モジュールの相互制約によってこの問題が解決できることを示した。 科研費受給期間の3年間に次のような研究活動を行った。あいまい文音声データの収集・分類・分析:日本語(東京方言と仙台方言)と韓国語(ソウル方言と慶尚道方言)の統語的なあいまい文の音声データを収集し、データベース化した。談話音声データの収集・分類・分析:日本語と韓国語のフォーカスなどの文脈情報を含む音声データを収集し、昨年から構築中のデータベースの整備を行った。文法の設計:昨年度、文法への音調情報の詳細な記述を付加し、韻律曲線生成につなぎ、コンピュータにインプリメントしたが、その調整を行った。韻律曲線生成モデルの構築:あいまい文音声とフォーカスを含む談話音声の系統的な分析をおこない、昨年度構築した生成モデルをより多くのデータを用いての精緻なものとした。 研究成果については、国内および国際的な学会発表や論文公表を行った。国内では言語処理学会発表論文集に掲載された論文が多数ある。また、Japanese/Korean Languistics誌にアクセント知覚論文が掲載された。国際音響学会での、発表、東アジア音声言語データソース関連のCOCOSDAワークショップでも関連論文を公表した。
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