本研究は、平成6年から8年まで、やはり科研費の支給により実施された「カレン語のチベット・ビルマ語派に於ける類型論的位置づけから見る中国語の起源」と題する研究の"続編"を成し、前研究に於いて確立された、フィールドワーク的手法によって口語データの統辞論的分析から当該言語の類型を特定し、最終的にはクレオール化の痕跡を探る作業を、前研究で対象としたカレン語以外のインドシナ諸語にも援用するために実施されたものである。 「疑問」など文レベルの法をマークする"文助詞"は、類型論的には"好ましくない"と言われつつも、系統論的な位置づけとは無関係に、ほとんどの基本語順を動詞中置とする東南アジア諸語に於いて文末に配置される。しかしながら、"文現に於ける命題とモダリティは区分されるべきである"という捉え方に立脚した「文法上の重力」という概念を導入することにより、文レベルの法は必ずしも命題を構成する中心要素である動詞に重ねてマークされる必要は構造的にもないことが明らかになってくる。東南アジアで行なわれている、系統の異なった諸言語の比較により、文助詞はむしろ「動詞」とは直接の関係を持たない、別の統辞現象との結びつきの方がより強固なのではないだろうか?そしてだからこそ、基本語順が主として動詞中置であるインドシナ諸語に於いても問題なく文末に現われ得る、と考えられるのである。 現時点てはまだ確証とまではいかないものの、インドシナ諸語にはクレオール化の痕跡と解釈できるような現象は極めて多い。問題の解明に「文法上の重力」の概念は中心的役割を果たすと考えられるが、次の研究では是非とも「言語のクレオール起源説」を完結させたい。
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