研究概要 |
シナ=チベット語族チベット=ビルマ語派ロロ=ビルマ語群のビルマ語系(Burmish)諸言語の語彙比較を通して,ビルマ語系諸言語の祖語(Proto-Burmish)の祖形を再構することを研究目的とする。 在京のビルマ国籍マル族(バプティスト派牧師)の協力を得て,マル語の語彙調査を行った。10年程まえにビルマにおいて行った現地調査により得た資料や中国において刊行された資料のうち.,ビルマ語系諸言語のものを加えて検討した結果,マル語ないしビルマ語系諸言語の語彙の特徴として,以下のことが明らかになった。 マル語語彙には,(1)チベット=ビルマ語の祖形にさかのぼりうる語(例:頭,目,鼻),ビルマ語との同源語(例:雨,畑,におい),ロロ語系(Loloish)言語との同源語(例:ことば,塩辛い,ズボン)がある。(2)ビルマ語・ロロ系言語のいずれにも同源語がみいだせないものがある(例:太陽,人,水;「人」については,第30回国際漢蔵語会議での発表に対するJ.A.マティソフ教授の教示によれば,ロロ語系のラフ語の「牡」を示す附属形態素に関連するらしい)。(3)カチン語からの借用語でチベット=ビルマ語の祖形でないものがある(例:山)。また,(4)語形成の特徴として,ビルマ語NV型(例:人+病む→病人)がマル語VN型(例:病む+人)に対応する。しかし,前者はむしろロロ語系言語に優勢な特徴である。(5)マル語とビルマ語は多くの同源語を共有するものの,語彙構造において著しいちがいを示す場合がある(例:色彩名称,親族名称,存在詞)。 ビルマ語系諸言語の語彙調査表の改良と比較語彙表の補正をと行いつつデータの集積に努めた。 今年度は,ヌ語,ヌン語との関係を十分検討する作業はあまりすすまなかった。
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