研究概要 |
シナ・チベット語族チベット・ビルマ語派ロロ・ビルマ語群ビルマ語系(Burmish)諸言語の語彙比較を通じて,ビルマ語系祖語(proto-Burmish)の祖形を再構することを研究目的としてきた。 昨年度にひきつづき,在京のビルマ国籍マル族(バプティスト派牧師)の協力を得て,マル語の語彙調査を行なった。以前ビルマにおいておこなった現地調査により得られた資料や中国など海外で公刊された資料を加えて検討した結果,ビルマ語系言語の特徴として新たに次のようなことが明らかになった。 (1) 数詞1から10までのうち,マル語の‘2'/sit/と‘4'/pyit/は,同系のアツィ語(‘2'/'i/,‘4'/mi/)などの場合同様に,チベット・ビルマ祖語の祖形(‘2''g-nis,‘4'b-liy)からかけはなれた形式を示している。‘2'/sit/はスゴー・カレン語の/khi/と同源形式かもしれない。‘2'と‘4'以外は,ビルマ語およびチベット・ビルマ祖語ときれいに対応している。しかしながら,やや来源がちがう(かもしれない)形式を,系統を異にする 言語からの借用と断ずることはできない。数詞が借用されるときは,一般にシリーズとしてひとつづきに借用されることが多いからである。 (2) 数詞とともに用いられる類別詞(助数詞)は,同系言語のあいだでも対応形式の認められる例は必ずしも多くはない。マル語・アツィ語・ラシ語などとビルマ語のあいだで対応するものとして, 「〜人」 「〜箇」 「〜枚」などがあり,これらの言語のあいだの親縁性の大きさを示している。 (3) 機能語である格助詞の具格(〜ニヨリ)・共格(〜トトモニ)・連格(〜ト〜)が共通の形式によって表わされる(マル語/-yi/,ビルマ語/-oe)ことも興味深い。
|