研究概要 |
1 本研究の目的は,ポ-ズの「超分節性」(即ち,ポ-ズ挿入にともなうイントネーションや発話速度などの変化が,ポ-ズ位置前後の発話分節,あるいは時間的にさらに離れた位置の発話まで及ぶという現象)に着目して,その諸相を解明することである。 2 研究実施計画に従って,発話テキストの準備(平9/4-5月),音声収録(平9/6-7月),分析・検討(平9/8月〜)を行った.本年度は,発話の時間的特徴(ポ-ズ長と発話速度)に焦点をあて,ポ-ズを挿入した場合に発話速度がどのように影響されるかについて検討を行った.[音声分析に際して,本補助金で購入した備品,音声データ編集分析用ラップトップを使用した.] 3 本年度の研究より,以下の知見が得られた. (1)発話速度の推移 ポ-ズ直前の文節で発話速度が遅くなる.また,発話速度のばらつきはポ-ズ位置の直前直後の1文節で著しい. (2)発話速度の伸縮 ポ-ズなしの場合の発話速度を基準とした時,ポ-ズありの場合の発話速度がどのように伸縮するかを調べた結果,ポ-ズ位置直前の1文節において発話速度比が著しい縮小を示した.ポ-ズ位置直後の1文節については,個人差がみられた.ポ-ズ挿入に伴う発話の時間構造の仕方には,話者によって異なる特徴的なパタンがあることが示唆される. (3)モ-ラ長の伸縮 ポ-ズあり条件下で発話速度の著しい縮小が観察されたポ-ズ位置直前の1文節について,モ-ラ長がどのように伸縮するかを,ポ-ズなしの場合を基準とした比率としてモ-ラごとに調べた結果,伸張の傾向が著しいのはポ-ズ位置直前の1モ-ラであることが明らかになった. (4)今年度の成果の中で特に興味深いのは,発話速度という表層の現象に着目するかぎり両話者とも同様な変化の特徴を示すのに対して,ポ-ズ条件の違いに対応した発話速度“比"やモ-ラ長“比"という次元でみると,個々の話者が特徴的に異なるパタンを示すという点である.このことは,ポ-ズ挿入に伴う発話の時間構造の調節の背後に,異なるタイプのメカニズムが存在しうることを示唆していると考えられる. 4.来年度は,さらに音声の基本周波数についても解析を行い,発話速度に関する結果と併せて,ポ-ズの超分節性に関する統合的な解釈およびモデル化を試みたい.
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