ソグド人はシルクロードを往来する商業民族として、唐以前の時代イラン東部の地から中国に多数来ていた。彼らは同時代に漢文資料に登場するが、その際には彼らのソグド語の人名が漢字で音写される。この人名を集め、当時の中国語の発音を考慮しながら、それらをもとのソグド語に還元することが本研究の目的である。今年度は、これらの人名が最も多く含まれている、トルファン出土の漢文文献に現れる人名を網羅的に蒐集した。さらに敦煌出土文書や典籍資料に見られる人名もかなり集めることができた。残るは墓誌などの碑文資料であるが、現在は録文を集めている段階にある。 これらの人名をソグド語に還元する作業として、勃帝芬pwtyprn「仏陀の栄光」のような、「仏陀」を構成要素として持つ人名を整理し、それらがすべて唐の時代に属することを明らかにすることができた。これはソグド人が仏教徒になった時代についての重要な発見である。また、ソグドの南のトカラ地方出身の人の姓と見られる、羅姓の人名を集めてそれらが、普通のソグド語人名と変わらないことを明らかにするとともに、トカラ地方のイラン語であるバクトリア語で解釈できる、羅姓の人名がごくわずかであるが存在することも発見した。別に、ソグド語に限らず、唐以前の時代の漢文資料に見られる中世イラン語(中世ペルシア語、バクトリア語、コ-タン語)の要素の種類について一定の見通しを立てることができたので、それを論文の形でまとめた。
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