研究概要 |
今年度はトルファン出土の文献に現れたソグド語の人名を収集する作業に多くの時間を費やした。その成果として,龍谷大学が所蔵する文書及びベルリンのトルファン学研究所が保管するすべての文献について,マニ教ソグド語文献の奥書に現れたソグド語の人名を回収することができた。またその副産物として,龍谷大学図書館所蔵の大谷探検隊将来のイラン語文献の全点の研究と写真版を公刊することができた。ちなみにこの資料は将来以来80年近くの間未出版のままであったものであり,わが国のイラン学及び中央アジア学に一定の貢献をすることができたと自負している。さらに回収されたソグド語の人名が,従来正確な読みが不明のままであった,ソグド語のコインの銘文に在証されることも発見できたのは幸いであった。 またこの過程で,ベルリンにある資料と龍谷大学の資料(さらにはロシアのサンクト・ペテルブルグにある断片)が互いに接合する場合があることも明らかになった。そして接合された文書についての研究を,単行の論文として公刊することになり,現在印刷中である。その中には上で述べたマニ教ソグド語文献の奥書についての研究も含まれるが,マニ教徒のソグド人とともにチュルク人の人名もいくつか現れてること,さらにはこれらの奥書そのものが一定の書式に基づいて書かれており,その同じ書式で書かれた古代チュルク語の奥書が何点か存在することを発見した。この事実は,おそらくは10世紀のトルファンでは古代チュルク語とソグド語の二言語併用が行われていたことを示すものであり,中央アジア史及びソグド語の消滅のプロセスを知る上で貴重な発見である。 これらの研究とは別にソグド語仏典について,成立の経緯や内容についての網羅的な研究をまとめたが,これはイラン語の文学史の一部として公刊されることになった。
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